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プロフィール:
中東調査会上席研究員。13年間中東に在住し、現代中東情勢に関するコメンテーター。2004年 東京大学教養学部非常勤講師、 2005年 敬和学園大学非常勤講師を経て、現在 ゼネラルサービス専務取締役を務める。

<中東のイメージと実態>
 中東・アラブ・イスラムのイメージは、特に日本人がマスコミに見せられる中東の映像は誰かが拘束されているとか、バスが焼け焦げているとか、人が死んでいる絵だけで、「テロリストばかりじゃないか?」という怖いイメージを抱かれてしまっているようです。また、暑いイメージがあるが、確かに東の産油国であるイラクの南部のバスラは気温57度という世界最高気温の記録があるほどだが、チグリス川・ユーフラテス川を北上すると1,000メートル超の山々があり、冬は1メートル位積雪がある。また、殆どのイラク人は前述の川の間の住みやすい地域に住んでおり、農民であり、都市民である。
 イスラム教のコーランというのは、物語のあるキリスト教と違い、説教宗である。例えば、禁酒や豚を食べてはいけないという理由は、イスラムの日本語解説によると高温の地域では豚に虫がつきやすかったり、腐りやすかったりする為ともってまわったような解説が多いが、答えはただ一つ「神様が食べてはいけないと言っているから」である。我々は彼らの信仰の本質がわからないというパターンが多々あり、無理やり理屈をつけようとするが、相手の文化を理解するということはそういうことではない。
 一部を除いて、日本人が思っているほど遠くて酷い地域ではないが、ここ近年、世界経済に大きな影響を及ぼしつつある。

<石油価格>
 経済産業省のエネルギー資源庁の委員を6年やっており、エネルギー中期戦略(25年毎)を4〜5年に一度、中期計画として関わっている中でオイルエコノミストの方と接触する機会が多く、曰く、石油が80ドルになるとか50ドルになるとか予測していたが、石油価格はオイルエコノミストが言うような需要と供給だけでは計れない。国際エネルギー機構(IEA)による石油の30年後の価格予想はなだらかな線を描いているが、現実は乱高下している。乱高時は下記の通り必ず中東の政治的不安が発生している。

第一次石油ショック(‘73年)・・・第4次中東戦争
第二次石油ショック(‘79年)・・・イラン革命
イラン・イラク戦争、タンカー戦争(‘80年代)
湾岸戦争(‘90年)

 2001年以降も石油が政治的商品と言われるままに中東の政治不安によって高騰してきた。
本来、プラスチックに精製できない石炭と違い、石油は非常に精製し易く、安価なエネルギーである。なるべく使いたい資源であるが、例えば富士山を枡にして、現在確認されている埋蔵量の石油を汲み上げたとすると、たった0.5杯しかない。また、代替エネルギーも無い。バイオエタノールはまだ経済的なfeasibility (実現可能性)が取れない為、石油から脱却できない。しかも、日本は第一次石油ショック以降、中東への石油依存率を下げようと掲げていたはずが、当時の中東依存率74%から現在90%と逆に上がっているのが現状だ。
 石油輸入率100% 中東依存率90% 中東の政治不安が日本へ与える影響は他国より日本は高い。日本は極めて脆弱なエネルギー国と依存体質となっている。世界各地を見ても、全てのエネルギーの中で石油依存率がイタリアについで高い。
 世界石油需給バランスによると、2001年の世界の1日当り需要量7710万バレル、供給7720万バレル。2004年から石油価格が上がり始めたがその後も、石油の供給量は需要に比べ余っている状況(200年を除く)。需給バランスに価格が連動してない。原因は政治不安に併せて、投機の影響もあると考えられる。

 投機にはアメリカ市場が深く関わっている可能性が強い。その中でもオイルマネーが大きい。一般論として石油の取引通貨はドルである。利益の多くはアメリカ市場で運用する。短期的には7%〜9%の運用益を目指し、長期では不動産投資(リート)として安全に運用してきたが、アメリカ市場が不動産をはじめ崩れ始めてきた。そうなると、オイルマネーが逃げ出す→世界の投資方法も変わってくる→商品に反映する。最も大きな商品は石油でありこれが高騰する、という構図になっているのではないか。
 但し、中東にとっては石油価格が上昇し収入増となっても不安要素を抱えている。世界経済の不況→石油が売れなくなる→石油取引通貨のドル安→運用の目減り・・・結果ドルペグを外す、すなわちドル以外の通貨で取引傾向にある。但し、サウジアラビアのようなアメリカに安全保障されているような場合はドルペグが外せないでいる。
 石油は不足し始めている。インドネシアでは石油消費量が半分になっている。また一部の国では買えなくなっている。石油に補助金を出している国もある。日本はまだ豊な国なので、買える。石油を増産できるのはOPEC(世界輸出国機構)しかないが現在は稼働率94%でぎりぎりである。ところが、イラク単体の稼働率は64%で一日100万バレル増産できる唯一の国であり、今後政治的にも注目されている。

 ソブリンファンド(国債) の増加に伴い、産油国はオイルバブルで設けた資金を日本へも投資するようになった(コスモ石油等)。これはアメリカ以外の各国にも分散投資し、生産のみならず下流部分も押さえ、流れを確保しておくという戦略である。サブプライム問題発生以降、シティバンクへ数カ国が投資したのも記憶に新しい。これはアメリカとの同盟関係維持のための戦略的投資である。

<テロ・対テロ対策>
 イラク・アルカイダのテロは減少しているが宗派・民族対立が激化している。アメリカの失政が原因ではないか?それはサッダーム・フセインが実行してきた中央集権・軍隊・バースト党を全て排除したことによるだろう。それにより地方部族の力が大きくなった。スンニ派とシーア派の対立がそれである。現在、大統領選で議論されているイラクからの兵撤退は難しいのではないか。幾つか理由があるがアメリカが撤退したらシーア派のサドル勢力は停戦を再開すると宣言しているのもひとつである。
 大統領選挙の構造も変化している。争点は外交、すなわちイラク対テロ及びイランだが、共和党がブッシュ大統領の支持率低下により弱体化しており、マケイン候補のハンディキャップになっている。一方、民主党の投票数は前回の1.8倍、選挙資金は10倍も集まっている。退役軍人からの献金は軍歴のあるマケインより、イラクから撤退すると言っているオバマに多く流れている。また、オバマは石油業界からの献金が無い。ということは産油国にプレッシャーをかけるツールを持ってないと考えるが、故に次期大統領となった際には非常に経済に苦労するのではないか。アメリカの経済と密接な日本にも影響があるだろう。

<国内の今後のエネルギー動向>
 東京電力柏崎原発の停止で不足した分を火力発電(重油)で補填したがガスが前年比2787%増となり、軽い石油(ガソリン・灯油・軽油・ガス等)は今後も高騰が続くだろう。また更に中国国内の格差対策により内陸部へ優先的に軽い石油を供給し、沿岸部には残った重油を供給、この傾向は四川の地震により強まるだろう。
(事業委員会 光造 純)